世界の
予防の始まりと
オーラルケアの歩み

200年前、人類の歴史で
予防歯科が始まりました。
先人たちが残してくれた
予防の哲学、根拠、実践方法。
オーラルケアはそれらを継承し、
誰もが「本当の予防」によって歯を守り、
健康で豊かな人生を送れることを
目指しています。

INTRO

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I海の向こうで始まった
予防歯科

オーラルケアが日本で普及している予防は、
海外から始まりました。
ここでは、現在のオーラルケアにつながる
「予防に革命を起こした人たち」を
アメリカと北欧から紹介します。

アメリカ 国旗アメリカでの始まり

パームリー
200年前、フロスの価値を
世界で初めて訴えた歯科医師

200年前、フロスの価値を 世界で初めて訴えた歯科医師

今から約200年前の1815年、アメリカ。世界で初めて予防の芽が出ました。
当時、人々は食塩などで自家製の歯磨き粉を作り、柔らかい布につけて歯の表面をこすっていました。そんななか、「歯と歯の間を清掃することは、世界中のどんな歯ブラシや歯磨き粉より疾患の予防につながる」と、絹糸で歯間部を清掃する(現在のフロッシング)ことを勧めた歯科医師がいました。レヴィ・スピア・パームリーです。
1819年、パームリーは世界で初めて予防歯科臨床の書籍を発表。その中から一節だけご紹介します。

この頃、日本は江戸時代。既にパームリーは歯を守ることの大切さをこのように表現していました。現代でも“歯が美しい装飾品”と思う人が少ない中、歯の価値をさまざまな言葉で私たちに残してくれたのです。

バークレー
「歯」だけでなく「人」を診る予防に
生涯を捧げた
“予防歯科の騎士”

「歯」だけでなく「人」を診る予防に

それから100年以上経った1950年代のアメリカ。パームリーの知見は無視され、予防の芽が育つどころか治療全盛の時代になっていました。歯科医師は“歯を診る”のが当たり前だった時代にあって、“人を診る予防”へ大きく舵を切った歯科医師がロバート・フランク・バークレーです。

それでは、人を診る予防とはどんなものだったのでしょうか?
バークレーが遺してくれたものは、主に3つあります。
1つは、歯科医療者と患者さんの双方が、ともに客観的に診断すること。歯科医療者が患者さんに対して一方的に教えるのではなく、患者さんが自分で考えるのを手伝い、自分の健康に対する責任感を養ってもらうことです。
もう1つは、「5日間のセルフケアプログラム」。患者さんが歯科医師に頼りきりになるのではなく、自分の歯を理解して自分の力で歯を守る方法を、5日間かけてトレーニングするものです。
そして最後の1つは、「人として向き合い、内なる欲求を患者から語らせる関係性」。人と人としての血の通った信頼関係を築き、患者さんの人生の目標を共有して、ともに歩み続けていくことです。

予防歯科の騎士と呼ばれた彼は、「人間の行動学」や「患者との関係性」を大切にしました。予防に新たな希望を与えてくれたバークレーでしたが、飛行機の墜落事故により46歳で亡くなってしまいました。しかし、バークレーの哲学は残り、現在のアメリカにおける予防歯科の礎となっています。

北欧 国旗北欧での始まり

ハロルド・ルー
歯磨きをさせない実験で、
歯肉炎の原因を突き止める!

歯磨きをさせない実験で、歯肉炎の原因を突き止める!

1965年、デンマーク。ハロルド・ルーという研究者がとんでもない実験をしました。歯学部の学生12人に、いっさい歯磨きをさせないというものです。すると2日間でバイオフィルム(細菌の集合体)が形成され、3日目と4日目は一気にバイオフィルムの厚みが大きくなりました。20日後には全員が歯肉炎を発症。ところが、歯磨きをしてプラーク(細菌)を除去したところ、2~3日で歯肉炎が消えたのです。

ハロルド・ルーの研究の結果、わかったことが2つあります。
1つは「歯肉炎の原因はプラーク(細菌)である」ということ。そしてもう1つは「歯肉炎の段階であれば、プラークを除去することで健康な状態に戻せる」ということ。彼は、この2つが患者さんを教育していくうえでとても重要なポイントであることを示してくれたのです。

ハロルド・ルーの研究以降、プラークを取り除くことの重要性はますます明らかになっていきます。スウェーデンの歯周病学の世界的権威、ヤン・リンデも「歯周病の治療では、原因であるプラークをコントロールすることがもっとも大切である」と説いています。また、「すぐにオペをするのではなく、原因を除去することから始めなければいけない」と講演会等で繰り返し強調しています。

アクセルソン
スウェーデンを予防先進国に導いた
“予防の父”

何歳からでも歯は守れる! 真実を証明した“予防の父”

1960年代、スウェーデン。今では予防先進国と呼ばれるスウェーデンも、当時は多くの国民がむし歯や歯周病にかかっていました。このまま放置すると国の医療費が莫大に跳ね上がることが予想されたため、1970年からむし歯と歯周病の予防が国家戦略とされました。
この戦略において、現在のスウェーデンで行なわれている予防の「基盤」を作ったのが、ペール・アクセルソン博士です。世界中に多大な影響を及ぼし、その功績から“予防の父”と呼ばれています。

アクセルソン博士の数ある研究の中で特に重要なのが、「成人に対する長期予防臨床研究」です。スウェーデン・カールスタッド市の住民375名を対象に、1972年から2002年までの30年という長期にわたって行なわれました。アクセルソン博士は、誰でもむし歯や歯周病菌ができやすい「リスク部位」があることに着目。被験者に定期的に来院してもらい、それぞれの細菌が蓄積しやすいリスク部位を調べて共有し、適切なセルフケアの方法を教育しました。その結果、30年で彼らが失った歯は、平均でなんと0.5本! カールスタッド市はむし歯減少率の世界記録を達成したのです。

この研究から以下のことがわかりました。

  • リスク部位を理解することで、何歳から始めても歯は守ることができる
  • 歯科医院でのプロフェッショナルケア(PMTC)と患者へのセルフケアの教育が必要不可欠

アクセルソン博士は、最初に「なぜむし歯や歯周病になるのか」という病気の原因を明らかにしました。原因がわかれば、必然的に予防法がわかります。原因と予防法(プロフェッショナルケアとセルフケア)をカールスタッド市民に教育した結果、この地に「予防」が実現したのです。